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独自研究

  「当て推量数学」 で探索する 「新しい特殊関数」。

楕円 Fibonacci 関数

(2013年9月17日 掲載記事)
 Fibonacci 数Fibonacci数は、漸化式
  • Fibonacci数の漸化式
で定義される数列で、数学のみならず、自然界の様々な事象に広く見られる。
 この数列に対して、nを複素数に拡張した「Fibonacci 関数」
  • Fibonacci関数
を定義できることが既に知られており、関数等式
  • Fibonacci関数の関数等式
を満たす。なお参考までに、実変数および複素変数の Fibonacci 関数のグラフは次のとおり。
  • Fibonacci関数のグラフ(実変数)
  • Fibonacci関数のグラフ(複素変数)
  • Fibonacci関数のグラフ(複素変数)

 以下では、これを楕円関数化することを考えた。

楕円 Fibonacci 関数

 実数方向では Fibonacci 関数の関数等式を満たし、同時に、虚数方向でも類似する関数等式を満たすような関数を
  • 楕円Fibonacci関数の定義
で定義し、これを「楕円 Fibonacci 関数」と呼ぶこととした。
 楕円 Fibonacci 関数は、次の関数等式や性質を満たす。
  • 楕円Fibonacci関数の関数等式
 次のグラフからも分かるように、楕円 Fibonacci 関数は実軸に対して鏡映対称とならない。このため、非整数の実数上で楕円 Fibonacci 関数は一般に複素数値となる。
 実変数の楕円 Fibonacci 関数楕円Fibonacci関数の記号と、複素変数の楕円 Fibonacci 関数楕円Fibonacci関数の記号のグラフ。(実変数のグラフの赤線は実部、青線は虚部。)
  • 楕円Fibonacci関数のグラフ(実変数)
  • 楕円Fibonacci関数のグラフ(複素変数)
  • 楕円Fibonacci関数のグラフ(複素変数)

 楕円 Fibonacci 関数は、次のように一般化できる。
  • 一般的な楕円Fibonacci関数の定義
 一般化楕円 Fibonacci 関数は、次の関数等式や性質を満たす。
  • 一般的な楕円Fibonacci関数の関数等式
特に、一般的な楕円Fibonacci関数の記号である。また、楕円Lucas関数の記号は Lucas 数に対する「楕円 Lucas 関数」となる。
 実変数の楕円 Lucas 関数楕円 Lucas 関数と、複素変数の楕円 Lucas 関数楕円Lucas関数の記号のグラフ。(実変数のグラフの赤線は実部、青線は虚部。)
  • 楕円Lucas関数のグラフ(実変数)
  • 楕円Lucas関数のグラフ(複素変数)
  • 楕円Lucas関数のグラフ(複素変数)

虚数方向に周期的な Fibonacci 関数

 前の結果を応用して、実数方向では Fibonacci 関数の関数等式を満たし、同時に、虚数方向では周期関数となる「周期的 Fibonacci 関数」
  • 周期的Fibonacci関数の定義
が定義できる。
 周期的 Fibonacci 関数は、次の関数等式や性質を満たす。
  • 周期的Fibonacci関数の関数等式
 次のグラフからも分かるように、周期的 Fibonacci 関数は実軸に対して鏡映対称となる。このため、実軸上で周期的 Fibonacci 関数は常に実数値となる。
 実変数の周期的 Fibonacci 関数周期的Fibonacci関数の記号と、複素変数の周期的 Fibonacci 関数周期的Fibonacci関数の記号のグラフ。
  • 周期的Fibonacci関数のグラフ(実変数)
  • 周期的Fibonacci関数のグラフ(複素変数)
  • 周期的Fibonacci関数のグラフ(複素変数)

 (Mathematica Code 楕円 Fibonacci 関数のコードを、「Mathematica Code」 の頁に掲載しています。)

未知の Lambert 級数

 Lambert 級数はq-級数の一種と見ることができ、保型関数論や数論との繋がりもある。Lambert 級数の母関数は、
  • Lambert級数と冪級数との関係
で表わされる。特に、
  • 特殊なLambert級数
となることが知られている。ここに、μ(n)Möbius 関数φ(n)Euler のトーシェント関数σ(a, n)約数関数、およびλ(n)Liouville 関数である。このうち、3番目と4番目の関係式は、楕円モジュラー関数と関連がある。
 以下では、上記と異なる係数の Lambert 級数や、Lambert 級数そのものの拡張について考える。

他の数論的関数が係数の場合

 前述とは異なる数論的関数を係数とする Lambert 級数として、
  • 未知の特殊Lambert級数
を考える。ここに、ν(n)は素因数分解に含まれる異なる素数の個数 (素数ニュー関数)、Λ(n)Von Mangoldt のラムダ関数、およびτ(n)Ramanujan のタウ関数である。これらの母関数は果たして何であろうか?…。
 各関数の複素変数でのグラフ。順に、未知の特殊Lambert級数①, 未知の特殊Lambert級数②, 未知の特殊Lambert級数③, 未知の特殊Lambert級数④, 未知の特殊Lambert級数⑤, 未知の特殊Lambert級数⑥

 グラフから推測すれば、,,は互いに似ており、重み2の Eisenstein 級数との類似を感じさせる。重み6の Eisenstein 級数と類似している。は何となく初等関数に還元できそうな気がする。尖点形式 (モジュラー判別式) に似ている。

(2021年9月12日 追加記事)
 次のとおりは、ポリ対数関数を変数sで微分したのち、極限を取ると得られる関数に一致することが判明した。(前述の 「初等関数に還元できる」 との予想は誤りでした。)
  • 未知の特殊Lambert級数⑤の判明
 なお、このポリ対数(導)関数の極限は単位円の外部でも存在する。グラフで確認すると、次のようになっている。
  • 未知の特殊Lambert級数⑤のグラフ(判明後)
  • 未知の特殊Lambert級数⑤のグラフ(判明後)

「Mandelbrot - Lambert 級数」

 Lambert 級数の各項Lambert級数の項をグラフで見ると、次のようになる。
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ
  • Lambert級数の各項のグラフ

 Mandelbrot 集合の反復力学系関数を
  • Mandelbrot集合の反復力学系関数
で定義する (cの関数のとき Mandelbrot 集合、zの関数のとき Julia 集合)。
 このとき、Mandelbrot-Lambert級数の項をグラフで見ると、次のようになる。
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ
  • Mandelbrot-Lambert級数の各項のグラフ

 これらの結果は、あたかも Lambert 級数の「Mandelbrot 集合版」のようになっている。そこで、次の関数を考える。
  • Mandelbrot-Lambert級数の定義
 各関数の複素変数でのグラフ。順に、Mandelbrot-Lambert級数①, Mandelbrot-Lambert級数②, Mandelbrot-Lambert級数③, Mandelbrot-Lambert級数④, Mandelbrot-Lambert級数⑤, Mandelbrot-Lambert級数⑥, Mandelbrot-Lambert級数⑦, Mandelbrot-Lambert級数⑧

素数正弦関数・素数ガンマ関数

 古い (恐らく1990年代前半の) ノートを見ていて、当時から下記の独自関数を考えていた事を思い出しました。再度検証してみたところ新たな結果も得られたので、今回ここで取り上げることにしました。(いずれも、やや自明な結果かもしれない。)

素数正弦関数

 正負の素数に1位の零点を持つ超越整関数
  • 素数正弦関数
を、素数正弦関数と呼ぶことにする。その対数微分は、素数ゼータ関数素数ゼータ関数の記号の偶数での特殊値を用いて
素数正弦関数の対数微分の冪級数展開
と表わされる。よって、素数正弦関数自体の冪級数展開式は
  • 素数正弦関数の冪級数展開
となる。
 素数正弦関数と正弦関数の商
素数正弦関数と正弦関数の商
は、0, ±1, 正負の合成数に1位の零点を持つ超越整関数となる。この関数を用いれば、素数正弦関数の素数における微係数 (傾き) は
素数正弦関数の素数における微係数
で表わされる。
 素数正弦関数のグラフは次のようになる。
  • 素数正弦関数のグラフ(実変数)
  • 素数正弦関数のグラフ(複素変数)

素数ガンマ関数

 負の素数に1位の極を持ち、零点を持たない有理型関数
  • 素数ガンマ関数
を、素数ガンマ関数と呼ぶことにする。ここに、Meissel-Mertens定数の記号B1Meissel - Mertens 定数とする (以下同様)。
 素数ガンマ関数の対数微分は、素数ゼータ関数素数ゼータ関数の記号の特殊値を用いて
  • 素数ガンマ関数の対数微分の冪級数展開
と表わされる。よって、素数ガンマ関数の逆数の冪級数展開式は
  • 素数ガンマ関数の逆数の冪級数展開
となる。
 また、素数ガンマ関数の対数微分の冪級数展開式、および Meissel - Mertens 定数の定義式から
素数ガンマ関数の特殊値
となることが分かる。ここに、Eulerの定数γEuler の定数である。
 素数ガンマ関数は、素数正弦関数と
素数ガンマ関数と素数正弦関数の関係
の関係にある。しかし、ガンマ関数が満たす差分関数等式に相当するような、素数ガンマ関数の関係式は見つかっていない (恐らくそのような関係式は持っていない。よって 「ガンマ関数」 を含む名称で呼ぶのは適切でないかもしれない)。
 素数ガンマ関数のグラフは次のようになる。
  • 素数ガンマ関数のグラフ(実変数)
  • 素数ガンマ関数のグラフ(複素変数)

非 Bohr - Mollerup 型ガンマ関数

 kを実数パラメータ、zを複素変数とする関数f(k, z)は、f(k, z+1)=f(k, z), f(k, 1)=1, f(1, z)=1を満たす任意の周期関数とする。
 このとき、関数g(k, z) = f(k, z)*Γ(z)は、Bohr - Mollerup の定理①,②を満たすが、定理③は満たさない。すなわち、
  • g(k, z)の性質
となり、階乗の "擬似的な" 連続化に相当する。
 しかし、実変数のグラフは周期関数の影響から振動し、正の定義域で一般に単調増加にならない。この結果は、「1より大きい階乗 (の連続化) は単調増加になるはずだ」 という私達の理性にも反している。

周期関数因子が三角関数の例

  • g1(k, z)
 この関数の実変数グラフ、および複素変数グラフ (アニメーション:6.27MB)
  • 非Bohr-Mollerup型ガンマ関数g1(k, z)のグラフ
  • 非Bohr-Mollerup型ガンマ関数g1(k, z)のグラフ

周期関数因子が楕円関数の例

  • g2(k, z)
 この関数の実変数グラフ、および複素変数グラフ (アニメーション:7.82MB)
  • 非Bohr-Mollerup型ガンマ関数g2(k, z)のグラフ
  • 非Bohr-Mollerup型ガンマ関数g2(k, z)のグラフ

真性特異点を持つ二重周期関数

(2017年11月11日 掲載記事)
 Weierstrass の楕円関数およびその導関数の部分分数展開式を、次のように変形した関数を定義する。ただし、周期をΩ=2m*ω1+2n*ω2とし、総和記号は Weierstrass の楕円関数に準じる。
  • P2(z | ω1, ω2), P3(z | ω1, ω2)の定義式
 関数P2,P3は二重周期関数であるが、格子状に並ぶ真性特異点を持ち、その周囲に無数の零点がある。したがって、(有理型関数ではないので) 本来は楕円関数ではないが、さしずめ 「位数が∞の楕円関数」 とも言える状況になっている。

複素変数のP2(z | ω1, ω2)のグラフ。
  • P2(z | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
  • P2(z | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
複素変数のP3(z | ω1, ω2)のグラフ。
  • P3(z | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
  • P3(z | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)

 P(z) = P(z | w1, w2) = P(z, {g2, g3})とし、そのk階導関数をP(k)(z)と表記する。また、Eisenstein 級数G k(τ)=G k(ω1/ω2)とするとき、関数P2,P3は、Weierstrass の楕円関数の無限級数、および Laurent 級数に展開できる。(ただし、後者は有限の収束半径を持つ。)
  • P2(z | ω1, ω2), P3(z | ω1, ω2)のLaurent級数展開式等
ここに、Laurent 級数展開の係数は、
  • Laurent級数展開の係数の定義式
である。特に、hが小さい場合の係数
  • Laurent級数展開の初期係数
を、逆数変数の三角関数級数で表わすと、
  • Laurent級数展開の初期係数(三角関数表現)
となる。(私はこれらを用いた楕円モジュラー関数の類似をいくつか試みたが、特筆するような結果は得られなかった。)

複素変数の ①g2,2(τ), ②g2,4(τ), ③g3,1(τ), ④g3,3(τ)のグラフ。(ただし、ω1=1/2, ω2=τ/2とする。)
  • g2,2(τ)のグラフ(複素変数)
  • g2,4(τ)のグラフ(複素変数)
  • g3,1(τ)のグラフ(複素変数)
  • g3,3(τ)のグラフ(複素変数)

 さらに、部分分数展開式を Jacobi の楕円関数によって変形した関数
  • P2(z, m | ω1, ω2), P3(z, m | ω1, ω2)の定義式
を定義する。関数P2(m),P3(m)も格子状に並ぶ真性特異点を持つ二重周期関数であるが、その格子点の周囲に無数の (1位の) 極がある。

複素変数のP2(z, m | ω1, ω2)のグラフ。
  • P2(z, m | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
  • P2(z, m | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
複素変数のP3(z, m | ω1, ω2)のグラフ。
  • P3(z, m | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)
  • P3(z, m | ω1, ω2)のグラフ(複素変数)

 (Mathematica Code 真性特異点を持つ二重周期関数等のコードを、「Mathematica Code」 の頁に掲載しています。)

von Mangoldt 指数級数の漸近公式

(2018年06月23日 掲載記事)
 英語版 Wikipedia の Von Mangoldt function を見ると、「Exponential series」 という項目があり、関数
von Mangoldt指数級数の定義級数
のグラフを掲載するとともに、この関数を von Mangoldt 指数級数 (von Mangoldt exponential series) と称している。グラフの詳細説明 (More detailes) を見ると、描画に必要な級数の加算は 20億項以上 (!) との説明がある。
 今回、この関数を非常に少ない項数で近似できる漸近公式が得られた (2018年6月) ので、ここでその概要を示すことにする。因みに、(管理人の力量不足もあって) これに辿り着くまで5~6年間は様々な方法を試行錯誤したように記憶している。
 (実は、この方法を思い付いた直後、念のため G. H. Hardy & J. E. Littlewood の原論文 「Contributions to the Theory of the Riemann Zeta-Function and the Theory of the Distribution of Primes, Acta Mathematica. 41, p.119–196」 を確認したところ、ほとんど同じ方法による考察が既にあることが分かった。ただし、
von Mangoldt指数級数(他の型)
に対して適用している点が異なる。また、その論文の目的は、より重要な 「素数定理の誤差項の下限評価を求める」 ことにあった。)

【漸近公式を求める方法】
 この方法の要点は、逆 Mellin 変換と留数定理を用いることであるが、複素関数論では割合よく見られる方法なので、以降ではその道筋だけを簡単に示す。
 まず、逆 Mellin 変換までの手順を一気に記すと、
  • 逆Mellin変換までの式変形の道筋
となる。この逆 Mellin 変換の積分経路は、被積分関数
  • 逆Mellin変換の被積分関数
のすべての極を左側に見ながら (正の向きに) 囲う留数定理にもなっている。(次の図を参照。本来は、まず有界で閉じた矩形の積分経路を設定し、次に矩形の辺の長さを無限大にする極限を取らなければならない。)
  • 逆Mellin変換の積分経路図

 Riemann ゼータ関数の非自明零点をζ(ρ)=0, 0<Re(ρ)<1と表記するとき、各々の極における留数は、
  • 各々の極における留数
となる。したがって、留数定理から
  • 漸近公式(前段階)
を得る。分子に Bernoulli 数がある級数の収束半径は有界であるが、幸いこの級数部分は
  • 双曲線余接関数の冪級数展開式
と解釈できるので分離し、さらに、Riemann 予想が正しいと仮定してρ=1/2±τ(n)iとするならば、最終的に目標の漸近公式
  • von Mangoldt指数級数の漸近公式
が得られる。

【原点近傍での漸近近似式】
 z→+0のもとでは、漸近公式における高次 (ここでは3次以上) の冪項、および絶対値が大きい非自明零点の項は無視できる。対数因子を持つ項も消えるがここでは残すことにした。よって、漸近近似式
  • von Mangoldt指数級数の漸近近似式
が得られる。次のコードは、絶対値が小さい最初の3個まで非自明零点を加算するとした漸近近似式による。
  • 漸近近似式によるコード

 Wikipedia にあるものと同じ範囲でグラフを描画する。(たった0.873秒で計算できることに注目して下さい。)
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(実変数1)

 直前のグラフと Wikipedia のグラフとを (一方の画像を半透明にして) 重ねてみる。→ 一致している。
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(実変数2)

 先の More detailes では、「0に近付くにつれて振動が増大するが、-0.337877の切片を持つ直線のように見える」 との記述もある。この事は、漸近近似式をさらに定数項と1次の項のみに簡略化すると、一層明らかになる。前とは異なる描画範囲のグラフでそれを確認する。
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(実変数3)
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(実変数4)

 実際、この1次関数の定数項はvon Mangoldt指数級数の1次関数近似となる。

【複素領域ではどうなっている?】
 残念ながら、この漸近公式は引数の偏角が虚軸に近付くほど収束が遅くなり、虚軸上で発散する (ただし、虚軸は von Mangoldt 指数級数の自然境界と思われる)。原因は、非自明零点に由来する級数部分にある。偏角が実軸から離れると三角関数は指数関数的に増大するようになり、次第にガンマ関数が0に近付く速さと拮抗し始めるからである。また、z→+0の漸近公式ゆえ、引数の絶対値が大きい領域では誤差が大きくなる。したがって複素変数のときは、実変数の場合のような少ない加算項数では無理である (以降の計算では、非自明零点級数での加算項数を10,000にしている)。
 次のグラフは、漸近公式と冒頭の定義級数との誤差を、その絶対値の大きさで色分けしたものである。(分量の理由から、以降ではコードの掲載を省略します。詳細は Mathematica Code の頁にあるファイルを参照願います。)
  • 漸近公式と定義級数との誤差のグラフ

 この結果に基づき、領域によって計算方法を使い分けるようにしたコードを用いて、von Mangoldt 指数級数を複素領域で描画する。1番目は虚数方向の半周期分、2番目は原点に近い領域、3番目はさらに原点に近い領域である。(ただし、偏角が虚軸にかなり近い領域での概形は不正確かもしれない。また、2・3番目のグラフは約37時間も掛かっている。)
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(複素変数1)
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(複素変数2)
  • von Mangoldt指数級数のグラフ(複素変数3)

 (Mathematica Code von Mangoldt 指数級数のコードを、「Mathematica Code」 の頁に掲載しています。)

Kronecker の極限公式の導出方法

(2019年3月6日 掲載記事)
 実解析的 Eisenstein 級数の頁に掲載した第1 Kronecker の極限公式 (以降 「第1」 を省略する) は、Glaisher - Kinkelin 定数が現れる等、形が大抵の文献にあるそれとは随分異なっている。そこで念のため、ここに導出過程を掲載し、後半では Mathematica による検証結果も掲載する。

【手計算による Kronecker の極限公式の導出】
 実解析的 Eisenstein 級数の頁にあるE(τ, s)の Fourier 級数展開式を再掲すると次のようになるが、以降では、説明の都合上これを3項に分けてf1(τ, s), f2(τ, s), f3(τ, s)と表記する。
  • 実解析的Eisenstein級数のFourier級数展開式
 当然ながら、当サイトの定義と異なるE(τ, s)に対する Kronecker の極限公式は、ここでの結果と相違することがある。因みに、f3(τ, s)におけるn^(s-1/2)*σ1-2s(n)は、n^(1/2-s)*σ2s-1(n)に置き換えても結果は変わらない。なぜならば、約数関数は
約数関数の性質
を満たすからである。

【手順1:s=1における留数を求める】
 s=1にある1位の極はf2(τ, s)のみに由来する。よって、その留数を求めると、
  • E(τ, s)のs=1における留数
となる。すなわち、C(τ)sに依存しないτの関数とすれば、Kronecker の極限公式は
  • E(τ, s)のKronecker極限公式(暫定形)
の形になることが分かる。C(τ)は、f1(τ, s), f2(τ, s), f3(τ, s)に対する極限から生じるτの関数の和になる。そこで、それぞれをC1(τ), C2(τ), C3(τ)と表記しよう。すなわち、
C(τ)=C1(τ)+C2(τ)+C3(τ)
である。

【手順2:C1(τ)を求める】
 単に、極限をとれば次のように求められる。
  • C1(τ)を求める極限
(しかし、これはC3(τ)から生じる-yと相殺されることになる。)

【手順3:C2(τ)を求める】
 実はここに、Glaisher - Kinkelin 定数が現れる原因がある。C2(τ)とは、(s-1)*f2(τ, s)を冪級数展開したときの1次の項の係数である。つまり、「手順1」 の結果から、
  • (s-1)*f2(τ, s)の冪級数展開式(暫定形)
となるはずである。すなわち、C2(τ)は具体的に
  • C2(τ)の求め方
となる。ここに、①は 「手順1」 の結果を援用、②では
  • C2(τ)の求め方(②の註記)
を使用、③では、Riemann ゼータ関数の対称関数等式の両辺を対数微分して得られる式
  • C2(τ)の求め方(③の註記:その1)
並びに、Riemann ゼータ関数の Laurent 級数展開式とその導関数から得られる式
  • C2(τ)の求め方(③の註記:その2)
を使用している。

【手順4:C3(τ)を求める】
 これも 「手順2」 と同様、単に極限をとれば求められるが、計算はやや複雑である。このとき、第2種変形 Bessel 関数が初等関数
1/2次の第2種変形Bessel関数
に還元されることに留意すれば、目的の結果
  • C3(τ)の求め方
が得られる。ここに、④~⑦では以下の事実を使用している。
 まず④は、冒頭で述べた約数関数の性質、および
  • C3(τ)の求め方(④の註記)
 ⑤は、NISTにある公式:27.7.5においてα=1とし、その両辺をqで割って区間[0, q]で積分する。n≧1ゆえ級数は一様収束で、積分と総和記号の交換が可能。積分定数も生じない。つまり、次の等式が成り立つ。
  • C3(τ)の求め方(⑤の註記)
 ⑥は、Dedekind のエータ関数の無限乗積表示式から得られる。すなわち、
  • C3(τ)の求め方(⑥の註記)
 ⑦は、⑥に対する計算をさらに進めて得られるところの
  • C3(τ)の求め方(⑦の註記)
を使用する。

【手順5:Kronecker の極限公式を得る】
 「手順2」~「手順4」 の結果から、
  • C(τ)の結果
となる。よって、E(τ, s)に対する Kronecker の極限公式
  • E(τ, s)に対するKroneckerの極限公式
が証明された。
 なお、ζ(2s)*E(τ, s)に対する Kronecker の極限公式も、同様の方法で求められる (導出過程は省略する) が、f2(τ, s)に相当する項の分母にζ(2s)が無いため Glaisher - Kinkelin 定数が現れず、代わりに Euler 定数が (相殺されないため) 現れる。また、その場合のs=1における留数はπ/2になる。

【Mathematicaによる検証】
 得られた公式の信頼性を補強 (および手計算を検算) する目的から、以降では Mathematica を用いた二つの検証を行う。

【検証1】
 「手順1」 と 「手順3」 の検証、すなわちf2(τ, s)の Laurent 級数展開が
  • f2(τ, s)のLaurent級数展開式
となるか検証する。幸い、Mathematica では容易に Laurent 級数展開式を求められる。
  • Mathematicaによる留数とf2(τ, s)の検証

 よって、この結果は
  • 留数とf2(τ, s)の検証結果
を意味し、手順1と手順3の正当性が確認された。

【検証2】
 Kronecker の極限公式自体の検証。次のように左辺 (極限をとる) と右辺とに分けて、両者の一致、並びに両者の差が (ほとんど) 0になることを確認する。
  • F:Left(τ)とF:Right(τ)の式
 この検証では、実解析的 Eisenstein 級数のコードが必要になるので、併せてそれも掲載する。因みに、この Fourier 級数はIm(τ)=yが0に近くなければ速く収束する。また、s=1の近傍では充分な精度で収束する。(なお、このコードは高精度数値を使用するので遅く、グラフの描画には不向きである。)
  • 実解析的Eisenstein級数のコード

 第2列目が F:Left(τ)、第3列目がF:Right(τ)、第4列目 (最右列) が両者の差である。差が0の近似数となるので、この Kronecker 極限公式の信頼性は高い。
  • MathematicaによるKronecker極限公式の検証(その1)

  • MathematicaによるKronecker極限公式の検証(その2)

s=4 および 3 における Fibonacci ゼータ関数の特殊値

(2024年6月22日 掲載記事)
 自然数における Fibonacci ゼータ関数の特殊値の超越性については、Eisenstein 級数や Lambert 級数による表示式で論じられることが多い。一方、ζF(1)テータ零値q -ポリガンマ関数の値、ζF(2)はテータ零値のみで表示できる閉形式が知られている。
 そこで、ζF(4)及びζF(3)についても同様 (なるべく楕円テータ関数) の閉形式で表示することを考える。

【Fibonacciゼータ関数から派生した関数】
 Fibonacci ゼータ関数
  • Fibonacciゼータ関数の級数表示式
の一般 Dirichlet 級数表示において、奇数番目の項のみを加算した 「奇数項 Fibonacci ゼータ関数」 の公式
  • 奇数項Fibonacciゼータ関数の級数表示式
は、例えば D. Lowry-Duda の論文 「The Fibonacci zeta function and modular forms」 に載っている。二つの関数から直ちに、偶数番目の項のみを加算した 「偶数項 Fibonacci ゼータ関数」
  • 偶数項Fibonacciゼータ関数の級数表示式
が得られる。さらに同様の方法で、「交代 Fibonacci ゼータ関数」
  • 交代Fibonacciゼータ関数の級数表示式
も得られる。(コードは Zeta.m に搭載済み。)
 後に、ζF(4)の値をζF[Odd](4)+ζF[Even](4)から求める事例等を見るが、その前に (Fibonacci ゼータ関数を除く) それぞれの関数のグラフを確認しよう。

 奇数項 Fibonacci ゼータ関数ζF[Odd](s)のグラフ。
  • 奇数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(実変数)
  • 奇数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 奇数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 奇数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)

 偶数項 Fibonacci ゼータ関数ζF[Even](s)のグラフ。
  • 偶数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(実変数)
  • 偶数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 偶数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 偶数項Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)

 交代 Fibonacci ゼータ関数ζF[Alt](s)のグラフ。
  • 交代Fibonacciゼータ関数のグラフ(実変数)
  • 交代Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 交代Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • 交代Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)

 1および2の累乗をインデックスとする Fibonacci 数から成る無限級数
  • Millinの級数
は、Millin の級数と呼ばれる。そこで、これを一般 Dirichlet 級数にした
Millin-Fibonacciゼータ関数
を、このサイトでは 「Millin - Fibonacci ゼータ関数」 と呼ぶことにする。これの計算可能な式を、Fibonacci ゼータ関数の Lambert 級数表示式を求める場合と同じ方法で求めよう。
  • Millin-Fibonacciゼータ関数の導出過程
 Millin - Fibonacci ゼータ関数は、虚軸を自然境界とする右半平面が存在領域となる。これは、M(z)が単位円を自然境界とし、その内部 (原点を含む側) を存在領域とすることに由来する。したがって、Millin - Fibonacci ゼータ関数のグラフは、ζF(s), ζF[Odd](s), ζF[Even](s)およびζF[Alt](s)と大きく異なる。
 因みにM(z)は、1929年の K. Mahler による超越数論で要となった関数であって、0<Abs(α)<1なる代数的数についてM(α)は超越数であることが証明されている。

 Millin - Fibonacci ゼータ関数ζF[Mill](s)のグラフ。
  • Millin-Fibonacciゼータ関数のグラフ(実変数)
  • Millin-Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)
  • Millin-Fibonacciゼータ関数のグラフ(複素変数)

【註記:Millin について】
 この級数は、1974年にアメリカのペンシルベニア州の高校生であった D. A. Millin が証明したのでその名が冠せられているが、これは誤植が定着した名であって、正しくは D. A. Miller である。詳細は、History of Science and Mathematics の記事 「Who was D. A. Millin, the eponym of the Millin Series ?」 に掲載されているが、併せて Miller 本人からと思われる投稿もあって、その中で誤植名 Millin を "気に入っているので誰も変えないで欲しい" と発言している。
 現在、D. A. Miller は計算理論を専門とするアメリカの数学者となっている。

ウサギのセパレータ
【s=4におけるFibonacciゼータ関数の特殊値】
 以降では、サイト管理人が作成した Mathematica コード 「Zeta.m」 の事前読込が必要になる。
 (Mathematica Code このコードは、Mathematica Codeの頁にあります。)
Mathematicaコード「Zeta.m」

 始めに、ζF[Even](4)の閉形式を求める。
  • Lambert級数(1)の導出
 1番目の Lambert 級数は、Mathematica (Ver.8時点。以下同様) で明示的に求められない。
  • Lambert級数(1)

 しかし、Lambert 級数を q-級数に書き換えれば、Mathematica で明示的に求められるようになる。
  • Lambert級数(1)のq-級数表示

 2番目の Lambert 級数は、直接または q-級数のどちらであっても、Mathematica で明示的に求められない。
 これは、岩波数学公式Ⅲの49頁にある公式と、NISTの公式23.6.8を等号で結ぶと、容易に得られる。(これらの Lambert 級数は Eisenstein 級数の主要部分でもある。)
  • Lambert級数の閉形式
 よって、ζF[Even](4)の閉形式は次のようになる。
  • s=4における偶数項Fibonacciゼータ関数の値
 実際にζF[Even](4)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。
  • s=4における偶数項Fibonacciゼータ関数の値

 次に、ζF[Odd](4)の閉形式を求める。奇数項 Fibonacci 数の逆数は黄金比の代数式で表わされ、
  • Lambert級数(2)の導出
となる。この Lambert 級数は Mathematica で明示的に求められるが、q-ポリガンマ関数で出力されてしまう。
  • Lambert級数(2)のq-ポリガンマ関数表示

 上記の暫定的なζF[Odd](4)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。ただし、
  • 対数関数の分枝の採用
の分枝を採用する。
  • s=4における奇数項Fibonacciゼータ関数の値(q-ポリガンマ関数表示)

 二つの q-ポリガンマ関数をテータ零値で書き換える。q-ポリガンマ関数の虚数方向の周期性
q-ポリガンマ関数の虚数方向の周期性
に対して、z=1/2+πi/log(q)を代入すると、
q-ポリガンマ関数の複素共役性
が得られる。また、q-ポリガンマ関数の相補公式
  • q-ポリガンマ関数の相補公式
に対して、z=πi/log(q)すなわちx=-π/2を代入すると、
(楕円テータ関数の偶奇性に注意するが、結局この場合はx=π/2を代入した式と同じ符号になる。)
  • q-ポリガンマ関数の相補公式から得られる式
が得られる。楕円テータ関数の周期的性質に基づきθ4(m)(π/2, q)θ3(m)(0, q)に書き換え、さらにq=φ^(-4)を代入すると、
  • q-ポリガンマ関数の特殊値
となる。よって、ζF[Odd](4)の閉形式は次のようになる。
  • s=4における奇数項Fibonacciゼータ関数の値
 実際にζF[Odd](4)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。
  • s=4における奇数項Fibonacciゼータ関数の値

 ζF(4)=ζF[Even](4)+ζF[Odd](4)から目的の閉形式は得られるが、合算後のテータ零値はさらに簡略できる。
  • 合算後のテータ零値の簡略

 よって、テータ零値のみで記述されたζF(4)の閉形式が得られる。(さらに簡略できるかは不明。)
  • s=4におけるFibonacciゼータ関数の値
  • s=4におけるFibonacciゼータ関数の値

【s=3におけるFibonacciゼータ関数の特殊値】
 始めに、ζF[Even](3)の閉形式を求める。英語版 Wikipedia の Fibonacci sequence にある、偶数項 Fibonacci 数の逆数が黄金比の代数式で表わされた式を用いて、
  • Lambert級数(3)の導出
となる。この Lambert 級数は Mathematica で明示的に求められるが、q-ポリガンマ関数で出力されてしまう。
  • Lambert級数(3)のq-ポリガンマ関数表示

 上記の暫定的なζF[Even](3)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。ただし、対数関数部分をできるだけ簡約する。
  • s=3における偶数項Fibonacciゼータ関数の値(暫定)

 さらに、q-ディガンマ関数および q-トリガンマ関数の部分は次のように還元できる。虚数方向に半分の擬周期性
  • q-ポリガンマ関数の虚数方向の半擬周期性
に対して、z=1およびq=φ^(-2)を代入すると
  • q-ポリガンマ関数の虚数方向の半擬周期性から得られる式
となることが分かる。よって、ζF[Even](3)の閉形式は次のようになる。
  • s=3における偶数項Fibonacciゼータ関数の値
 実際にζF[Even](3)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。
  • s=3における偶数項Fibonacciゼータ関数の値

 次に、ζF[Odd](3)の閉形式をζF[Odd](4)と同じ方法で求める。奇数項 Fibonacci 数の逆数を黄金比の代数式で表わして、
  • Lambert級数(4)の導出
となる。この Lambert 級数も Mathematica で明示的に求められるが、q-ポリガンマ関数で出力されてしまう。
  • Lambert級数(4)のq-ポリガンマ関数表示

 上記の暫定的なζF[Odd](3)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。ただし、
  • 対数関数の分枝の採用
の分枝を採用する。
  • s=3における奇数項Fibonacciゼータ関数の値(暫定)

 q-ポリガンマ関数の相補公式
  • q-ポリガンマ関数の相補公式
に対して、z=πi/(2*log(q))すなわちx=-π/4を代入し、楕円テータ関数の奇数階導関数は符号の変更に注意すると、
  • q-ポリガンマ関数の相補公式から得られる式
が得られる。さらにq=φ^(-2)を代入すると、
  • q-ポリガンマ関数の特殊値
となる。これを暫定的なζF[Odd](3)の式に代入すれば、ζF[Odd](3)の閉形式は次のようになる。
  • s=3における奇数項Fibonacciゼータ関数の値
 実際にζF[Odd](3)の閉形式が正しいことを Mathematica で確認する。
  • s=3における奇数項Fibonacciゼータ関数の値

 よって、ζF(3)=ζF[Even](3)+ζF[Odd](3)から、なるべく楕円テータ関数で記述したζF(3)の閉形式が得られる (さらに簡略できる可能性もあるが、これも現時点では不明)。
  • s=3におけるFibonacciゼータ関数の値
  • s=3におけるFibonacciゼータ関数の値

【工事中】

 工事中:ここに新規項目の追加を計画しています。
 Under construction:I'm planning to add a new contents here.
工事中

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