特殊関数 グラフィックスライブラリー
Graphics Library of Special functions
http://math-functions-1.watson.jp
特殊関数 Menu
ゼータ関数に関連する関数
Riemann ゼータ関数の導関数
Riemann ゼータ関数の導関数は、Dirichlet 級数展開式を階項別微分したによって表わされる (和はから始めても同じになる)。 収束しない範囲では、これに 「Euler - Maclaurin 総和公式」 を適用して得られる式
を使用すれば計算できる。ここには積分指数関数、は Bernoulli 数であり、整数を適当な大きさに設定することで、精度を上げることができる。 因みにこれらの式は、が任意の複素数となる場合にも拡張されるが、ここでは取り扱わない。
Riemann ゼータ関数の導関数は、
等の特殊値がよく知られている。ここに、は Euler の定数、は Stieltjes 定数である。
また、Riemann ゼータ関数の対数微分は、Dirichlet 級数
に展開される。ここに、は Von Mangoldt のラムダ関数である。
複素関数としての Riemann ゼータ関数の導関数は、にある位の極を唯一の特異点とする有理型関数で、負の実軸上および臨界線の周辺に零点を持つ。 しかし、いずれの零点の位置も Riemann ゼータ関数に見られるような規則性はない※1。ただし、Riemann 予想が正しいと仮定したならば、 (=自然数) はに零点を有限個しか持たない (特にならば、に零点を持たない※2) ことが言える※3。
【註記】
※1 : このような相違点を踏まえて、Riemann ゼータ関数とは異なる頁に掲載することとした。
※2 : A. Speiser 「Geometrisches zur Riemannschen Zetafunktion」 Mathematische Annalen, 110, (1935), No.1, p.514-521
※3 : N. Levinson, H. L. Montgomery 「Zeros of the derivatives of the Riemann zeta-function」 Acta Mathematica, 133, (1974), p.49-65
※1 : このような相違点を踏まえて、Riemann ゼータ関数とは異なる頁に掲載することとした。
※2 : A. Speiser 「Geometrisches zur Riemannschen Zetafunktion」 Mathematische Annalen, 110, (1935), No.1, p.514-521
※3 : N. Levinson, H. L. Montgomery 「Zeros of the derivatives of the Riemann zeta-function」 Acta Mathematica, 133, (1974), p.49-65
①実変数の Riemann ゼータ関数の導関数のグラフ。
②負の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。
複素変数の Riemann ゼータ関数の導関数のグラフ。
①実変数の Riemann ゼータ関数の2位導関数のグラフ。
②負の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。
複素変数の Riemann ゼータ関数の2位導関数のグラフ。
①実変数の Riemann ゼータ関数の3位導関数のグラフ。
②負の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。
複素変数の Riemann ゼータ関数の3位導関数のグラフ。
①いくつかの位数の Riemann ゼータ関数の導関数を重ねた実変数のグラフ。
②負の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。
実変数の Riemann ゼータ関数の対数微分のグラフ。
複素変数の Riemann ゼータ関数の対数微分のグラフ。
Stieltjes 関数
日:Stieltjes関数,スティルチェス関数英:Stieltjes function,仏:Fonction de Stieltjes,独:Stieltjes funktion
Riemann のゼータ関数の極における Laurent 級数展開式
に現れる係数を、Stieltjes 定数という。この定数は通常、無限級数及び極限表示式
によって定義され、特にのとき (Euler の定数) になる。(ただし、これはの項に含まれる不定値を1と規約した場合。)
この定義式はともに、変数が負でない整数のみならず、複素数に対しても成立する。このような観点から 「Stieltjes 関数」 が定義される※1。
上記の無限級数の収束は大変遅いので、実際の数値計算では、これに 「Euler - Maclaurin 総和公式」 を適用して得られる式
を使用する。ここには積分指数関数、は Bernoulli 数であり、整数を適当な大きさに設定することで、精度を上げることができる。ただし Stieltjes 関数においては、である。(これはの項に含まれる不定値を0と規約しているからである。)
さらに、Stieltjes 関数はのとき
が得られる。この式はさらに収束が速く、数値計算に便利である。
後述の Sitaramachandrarao 関数は、Stieltjes 関数によって表わすことができる。すなわち、両者は
の関係にある。
複素関数としての Stieltjes 関数は、にある (留数が-1の)1位の極を唯一の特異点とする有理型関数で、正の実軸上に零点を持つほか、虚数軸の周辺にも零点を持つ。後者の複素零点の位置は、Riemann ゼータ関数のそれを思わせるような不規則間隔になっているものの、明らかに一直線上にはない。
【註記】
※1 : J. Bohman & C. E. Fröberg 「The Stieltjes function - Definition and properties」 Mathematics of Computation, vol.51 (1988) pp.281-289
※1 : J. Bohman & C. E. Fröberg 「The Stieltjes function - Definition and properties」 Mathematics of Computation, vol.51 (1988) pp.281-289
①実変数の Stieltjes 関数のグラフ。
②正の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。
③ J. Bohman & C. E. Fröberg の論文にあるものと同じ、のグラフ。
複素変数の Stieltjes 関数のグラフ。
J. Bohman & C. E. Fröberg の論文にあるものと同様のグラフ。
非自明零点の Dirichlet 級数
唯一の極を解消した Riemann のゼータ関数が、において Maclaurin 級数Sitaramachandrarao 定数は、極限式
によって定義されるが、この式を直接計算するのは難しい。極限式は複素数に対しても成立し、これを Stieltjes 関数と同様に 「Sitaramachandrarao 関数」 として独自に定義する (標準的な名称・記号は存在しない)。
実際の計算では、上記の極限式に Euler - Maclaurin 総和公式を適用した式
を使用する。ここには正則化不完全ガンマ関数、は Bernoulli 数であり、整数を適当な大きさに設定すれば精度を上げることができる。
複素関数としての Sitaramachandrarao 関数は、負の整数上でガンマ関数に由来する1位の極を持つ有理型関数である。また、正の実軸上に零点を持つほか複素零点も持つ。それらの位置に Riemann ゼータ関数のような規則性は見られず、グラフの概形も、前述の極の周辺を除いて Stieltjes 関数と似ている。
Lehmer の論文によれば、Riemann ゼータ関数の非自明零点に関する Dirichlet 級数※1
の引数が2以上の自然数であるとき、その値は Sitaramachandrarao 定数を用いて
と表わされる※2。 複素関数としてのは、に1位の極を持つ有理型関数である。
André Voros著 「Zeta functions over zeros of zeta functions」 Lecture Notes of the Unione Matematica Italiana, Vol.8 (2010), Springer) によれば、
となる。ここにも、Riemann ゼータ関数の非自明零点に関する Dirichlet 級数
によって計算できる。ここには正則化不完全ガンマ関数、は Von Mangoldt のラムダ関数であり、整数を適当な大きさに設定すれば精度を上げることができる。 複素関数としてのは、に2位の極、およびが負の奇数のときに1位の極を持つ有理型関数である。が正の偶数であるときのは、
のように冪級数展開式の係数として求められる。例えば具体的に、
となる。
関数は、副次的ゼータ関数 (Secondary zeta function)、スーパー・ゼータ関数、またはゼータ・ゼータ関数等の名で呼ばれるが、標準的とされる名称は存在せず一定していない。
【註記】
※1 : 1914年に G. H. Hardy によって、少なくとも臨界線上の非自明零点は無限個存在することが証明されているので、これらは無限級数になる。また、級数の定義方法から分かるとおり、Riemann 予想の成立を仮定している。
※2 : この Dirichlet 級数の値を用いて、Stieltjes 定数を表現することも可能である。例えば、J. B. Keiper の論文 「Power series expansions of Riemann's ξ function」 Mathematics of Computation, vol.58 (1992) pp.765-773 等。これまでの結果を大雑把に解釈すれば、母関数や特殊値を介した次のような特殊関数の系列が存在すると言える。
※1 : 1914年に G. H. Hardy によって、少なくとも臨界線上の非自明零点は無限個存在することが証明されているので、これらは無限級数になる。また、級数の定義方法から分かるとおり、Riemann 予想の成立を仮定している。
※2 : この Dirichlet 級数の値を用いて、Stieltjes 定数を表現することも可能である。例えば、J. B. Keiper の論文 「Power series expansions of Riemann's ξ function」 Mathematics of Computation, vol.58 (1992) pp.765-773 等。これまでの結果を大雑把に解釈すれば、母関数や特殊値を介した次のような特殊関数の系列が存在すると言える。
①実変数の Sitaramachandrarao 関数のグラフ。
②負の実数方向へ更に広い範囲を描画する。変曲点が Stieltjes 関数の2倍に近づく。
③正の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を拡大したグラフ。振動していることが分かる。
複素変数の Sitaramachandrarao 関数のグラフ。3番目は、2番目のグラフの原点周辺を拡大した場合。
①実変数の、非自明零点に関する Dirichlet 級数のグラフ。
②正の定義域のうち、関数の絶対値が小さくなる部分を確認するため、代わりにを描画したグラフ。 振動していることが分かる。
複素変数の、非自明零点に関する Dirichlet 級数のグラフ。
実変数の、非自明零点に関する Dirichlet 級数のグラフ。が大きくなると軸に漸近するが、と異なり振動しない。
複素変数の、非自明零点に関する Dirichlet 級数のグラフ。
素数ゼータ関数
日:素数ゼータ関数,素数ζ関数英:Prime zeta function,仏:Fonction zêta des nombres premiers,独:Primzetafunktion
素数の逆数列に関する Dirichlet 級数で表わされる関数
は、現在では素数ゼータ関数と呼ばれている※1。この関数については、19世紀後半の J. W. L. Glaisher 等による研究結果が知られているが、後述のとおり、関数の着想自体はもっと古くから存在したと推測される。
素数ゼータ関数は、Landau - Hurwitz の公式 (ただし、発見者は恐らく Glaisher (1891年) と思われる。)
によってさらに広い領域へ解析接続される。ここには Möbius 関数、は Riemann のゼータ関数である。
複素関数としての素数ゼータ関数は、Landau - Hurwitz の公式から明らかなように、正の方向から虚軸に近付くにつれて Riemann ゼータ関数の非自明零点に由来する対数分岐点が集積するため、虚軸が解析関数としての自然境界となる※2。また、平方因子を含まない自然数をとするとき、は実軸上の点列に対数分岐点を持つ。したがって Dirichlet 級数の形が Riemann のゼータ関数と似ているものの、素数ゼータ関数の複素領域での様相は大きく異なる。
素数ゼータ関数は主に素数分布論で現れるが、Riemann のゼータ関数に比べると頻度は少ない。L. Euler は Riemann ゼータ関数の素数積表示式を用いて、素数が無限個存在することの新しい証明、および素数の逆数和が発散することの証明を与えた (1737年)。これはにおける素数ゼータ関数の振る舞いに言及したものと解せられ、バーゼル問題 (→ Riemann のゼータ関数を参照) と状況を比較すれば、素数が自然数の平方数よりも密に分布することが分かる。さらに Euler は発散の速さが
と求められており、「Meissel - Mertens 定数」 と呼ばれる。ここには Euler の定数である。
素数ゼータ関数を指数関数に代入した関数は、Dirichlet 級数、および Landau - Hurwitz の公式から得られる無限乗積
で表わされる。ここに係数は、と素因数分解されるとき、
であるとする。無限乗積の形からは、が非自明零点および極になるで一般に代数分岐点となり、が非自明零点になるで零点となる。また、では1位の極となり、その留数は
である。
前述の無限乗積は複素数値計算に適しているが、その結果はを直接計算した場合と全く同じになる。(ただし、後者の分枝切断線の形状は、のそれから引き継がれる。)
【註記】
※1 : 素数ゼータ関数,副次的ゼータ関数,Fibonacci ゼータ関数等は、一般 Dirichlet 級数
に該当するため 「ゼータ」 を含む名称で呼ばれるが、その性質は多くの点で Riemann ゼータ関数と異なることから、通常はゼータ関数の一種であるとは考えない。
本文のとおり、は通常の Dirichlet 級数で表示できるものの、そのグラフは依然として Riemann ゼータ関数との相違点が多い。
※2 : Landau - Hurwitz の公式における Riemann ゼータ関数の対数は、単純にで計算すると分枝切断線が 「Type-1」 のようになる。当サイトでは、すべての分枝切断線が実軸に平行となる 「Type-2」 を採用する。(因みに、Mathematica の素数ゼータ関数で採用されている分枝切断線は、このいずれとも異なる。)
* 素数ゼータ関数は、独自定義の 「素数正弦関数・素数ガンマ関数」 の対数微分を冪級数展開したときの係数としても現れます。
※1 : 素数ゼータ関数,副次的ゼータ関数,Fibonacci ゼータ関数等は、一般 Dirichlet 級数
に該当するため 「ゼータ」 を含む名称で呼ばれるが、その性質は多くの点で Riemann ゼータ関数と異なることから、通常はゼータ関数の一種であるとは考えない。
本文のとおり、は通常の Dirichlet 級数で表示できるものの、そのグラフは依然として Riemann ゼータ関数との相違点が多い。
※2 : Landau - Hurwitz の公式における Riemann ゼータ関数の対数は、単純にで計算すると分枝切断線が 「Type-1」 のようになる。当サイトでは、すべての分枝切断線が実軸に平行となる 「Type-2」 を採用する。(因みに、Mathematica の素数ゼータ関数で採用されている分枝切断線は、このいずれとも異なる。)
* 素数ゼータ関数は、独自定義の 「素数正弦関数・素数ガンマ関数」 の対数微分を冪級数展開したときの係数としても現れます。
①実変数の素数ゼータ関数のグラフ。
②原点に近い実軸上における素数ゼータ関数のグラフ (実部と虚部)。
①臨界線上の素数ゼータ関数のグラフ (絶対値)。
②臨界線上の素数ゼータ関数のグラフ (実部と虚部)。
複素変数の素数ゼータ関数のグラフ。
複素変数のうち、原点に近い領域を拡大したグラフ。
複素変数のうち、虚軸に近い領域を拡大したグラフ。
複素変数のうち、虚軸に近い領域を拡大したグラフ (Type-1 の分枝切断線を採用した場合)。
①実変数ののグラフ。で実数値となる。
②原点に近い実軸上におけるのグラフ (実部と虚部)。
①臨界線上:のグラフ (絶対値)。
②臨界線上:のグラフ (実部と虚部)。
複素変数ののグラフ。
複素変数のうち、原点に近い領域を拡大したグラフ。
複素変数のうち、虚軸に近い領域を拡大したグラフ。
Riemann 素数計数関数
日:Riemann素数計数関数,英:Riemann prime counting function, 仏:Fonction de compte des nombres premiers,
独:Riemannsche Primzahlfunktion
一般に広く知られているように素数は自然数の中で不規則に現れる。素数列そのものを定義する方程式や関数を見つけるという研究も古くから存在するが、それらは概ね発展性に乏しく、重要な成果があったとは言い難い※1。そこで多くの数学者は、代わりに素数の出現頻度を個数で捉え、その増加傾向を広い範囲で大まかに評価するという問題に視点を移した。一見すると素数との結びつきが前者に比べて間接的に見えるが、素数ゼータ関数の所でも述べたとおり、その着想は素数が無限個あることの解析的な証明法に起源があり、その後は大いに発展して前者とは比較にならないほどの成果が得られた。
現在では、素数の出現頻度を見積る方法、およびこれに関連する理論は 「素数分布論」 と呼ばれており、数論の重要な一分野となっている。特に素数分布論は、複素関数論等で得られた解析学の方法を積極的に数論に援用する 「解析的整数論」 の主要分野とされる。素数に関する多くの未解決問題、とりわけ Riemann 予想 (→ Riemann のゼータ関数を参照) との重要な接点が19世紀に発見されたため、以降は常に数学者等の関心を集めるようになったが、まだ多くが未解決で残っていることからも分かるように、この分野の研究は相当の困難が伴う。
素数の個数を捉える具体的な関数はいくつか例があるが、そのうち最も単純な定義は、正の実数以下の素数の個数を表わす 「素数階段関数」である。すなわちのグラフはが素数のときに段差1を持つような階段状になるので、局所的に見れば依然としてランダムに増加する区分定義的で技巧的な関数である。しかしの範囲を広くすれば、のグラフは滑らかな曲線と見分けが付かなくなるので、これを扱い易い解析関数で近似しようという発想に自然に導かれる。実際、A. M. Legendre、C. F. Gauss、G. F. B. Riemann など多くの数学者が、より良いの近似法を発見しようと努めてきた。
Legendre は1798年に近似
を推察した。しかしこの推察は正しくないことが、1838年に P. L. Chebyshev によって証明された (後述の素数定理に見るように定数は不要である)。
Gauss も1792年に
なる近似を推察した。ここに、およびは積分対数関数である (以下同様)。以降、Gauss の近似をいくらか簡略化 (積分対数関数をその漸近展開式の第一項で近似) した
の形で証明される。この結果は、Riemann ゼータ関数の非自明零点の実部は1より小さいという事実と同値である。誤差項を改良する研究は現在でも続けられているが、1901年に N. F. H. von Koch は、Riemann 予想が正しいと仮定すれば得られる結果
一方 Riemann は、ベルリン学士院月報1859年11月号に掲載された有名な論文 「与えられた数より小さい素数の個数について」 中で、素数の個数が (素数定理とは別の意味で) ゼータ関数の非自明零点と密接に関係していることを明らかにした。それは現在 「Riemann - von Mangoldt 公式」 と呼ばれている無限級数
であるが、(それまでの近似法を超えて) 驚くべきことにそのものを与える。ここには、Riemann ゼータ関数のすべての非自明零点をわたる和であって、(すべて単根であると予想されているが) もし重根である零点が存在すれば重複して総和する (以下同様)。また、引数が冪関数になった積分対数関数は、単なる代入ではなく解析接続による解釈を必要とする。この公式は、論文における Riemann の説明が厳密でなかったため、1895年に H. C. F. von Mangoldt によって正確な証明が与えられた。
Riemann - von Mangoldt 公式の意味を大雑把に (イメージ的に) 解釈すれば、補間間隔が不規則な素数列になるように変形された Fourier 級数によってを表わしたものと捉えられる。この場合、非自明零点に関する項 (Riemann はこれを 「周期的な項」 と称している) は、Fourier 級数における三角関数に類似した役割を担っている。
結果的にその後の歴史では、素数定理の証明自体に Riemann - von Mangoldt 公式は必要でなくなり、逆に最良の誤差項評価は Riemann 予想の成立と同値になることが判明したが、恐らく Riemann も素数定理とその誤差項評価を意識して、前述の論文を著したと思われる。
ところで、Riemann - von Mangoldt 公式においてなる簡略化を行うと得られる無限級数
なお、この関数は 「Gram 級数」 と呼ばれる無限級数
複素関数としての Riemann 素数計数関数は、複素平面上に対数分岐点を持つ無限多価関数であり、実軸上の区間を分枝切断線とする。また、の近傍に絶対値が非常に小さい零点が無数に存在する。これは、Jörg - Waldvogel の公式
によって計算できる※3。
Riemann 素数計数関数を導出する方法を、非自明零点の項、および積分と定数の項にも適用すると、Riemann 素数計数関数のみを用いた Riemann - von Mangoldt 公式の表示
が得られる。この表示式では、Riemann ゼータ関数の極とすべての零点からの影響が明確に見て取れ、さらに、自明零点をわたる和の項は (上記の範囲に限って) 初等関数に還元される。
素数分布論ではに代わる関数として、「第2 Chebyshev 関数」
がある (ここでは、第1 Chebyshev 関数には触れない)。は、が単一の素数の正整数乗に等しい自然数となる所で、段差を持つ。
に対する Riemann - von Mangoldt 公式に類似した式は、
となる。これはのそれよりも簡潔で扱い易いので、素数分布論では、むしろの方が多用される (素数定理はからも導ける)。
【註記】
※1 : 大抵の結果は、入れ子になった累乗や床関数などの区分定義関数を使用した 「不自然で技巧的な」 関数となるため、そこから素数に関する何らかの知見を得ることはほとんど望めない。
(例えば、P. Ribenboim 著 「素数の世界:その探索と発見」 第3章が、この問題点等について詳しく論じている。)
※2 : この名称は Mathematica の言語解説ページ https://reference.wolfram.com/language/ref/RiemannR.html に従っているが、単に Riemann のR関数と呼ぶこともある。通常、Riemann 素数計数関数なる名称は、当サイトでの Riemann - von Mangoldt 公式 を指す場合が多い。なお、も普通は素数階段関数ではなく 「素数計数関数」 と呼ばれることが多い。
※3 : Folkmar Bornemann の論文 「Solution of a Problem Posed by Jörg Waldvogel, (2003).」 http://www-m3.ma.tum.de/Allgemeines/FolkmarBornemannPublications を参照。(公開はインターネット上のみ。)
※1 : 大抵の結果は、入れ子になった累乗や床関数などの区分定義関数を使用した 「不自然で技巧的な」 関数となるため、そこから素数に関する何らかの知見を得ることはほとんど望めない。
(例えば、P. Ribenboim 著 「素数の世界:その探索と発見」 第3章が、この問題点等について詳しく論じている。)
※2 : この名称は Mathematica の言語解説ページ https://reference.wolfram.com/language/ref/RiemannR.html に従っているが、単に Riemann のR関数と呼ぶこともある。通常、Riemann 素数計数関数なる名称は、当サイトでの Riemann - von Mangoldt 公式 を指す場合が多い。なお、も普通は素数階段関数ではなく 「素数計数関数」 と呼ばれることが多い。
※3 : Folkmar Bornemann の論文 「Solution of a Problem Posed by Jörg Waldvogel, (2003).」 http://www-m3.ma.tum.de/Allgemeines/FolkmarBornemannPublications を参照。(公開はインターネット上のみ。)
実変数の Riemann 素数計数関数のグラフ。
複素変数の Riemann 素数計数関数のグラフ。
実変数の Riemann 素数計数関数のグラフ。原点に非常に近い正の実軸上にある無数の零点を確認する。
複素変数の Riemann 素数計数関数のグラフ。ただし、領域では解析接続によって定義する。
この関数は、Riemann 素数計数関数に指数関数を代入して解析接続したもので、Gram 級数は冪級数
になる。これは超越整関数であり、絶対値が非常に大きい負数の実零点が無数に存在する。
実変数の Riemann 素数計数指数関数のグラフ。
複素変数の Riemann 素数計数指数関数のグラフ。
描画領域を非常に大きくした場合の、実変数の Riemann 素数計数指数関数のグラフ。
つまり (指数関数を代入しない) Riemann 素数計数関数では、零点が原点の右側近傍に圧縮されている。
描画領域を非常に大きくした場合の、複素変数の Riemann 素数計数指数関数のグラフ。
素数階段関数と各種近似関数のグラフ。
と各種近似関数との商のグラフ。
と各種近似関数との差 (誤差項) のグラフ。
なお、は常に正数とは限らず符号が無限回変わることを、1914年に J. E. Littlewood が証明した。また、その交代が起きる最小のが Skewes 数:以下になることを、1933年に S. Skewes が証明した。2000年現在、その範囲はまで狭められているが、非常に大きな数になると考えられている。(詳細は、Wikipedia 「スキューズ数」 を参照。)
①若干狭い範囲のグラフ (軸は等差間隔目盛)。
②より広い範囲のグラフ (軸は等比間隔目盛)。
上限評価の誤差項を伴う素数定理のグラフ。
Riemann - von Mangoldt 公式がに収束する様子を表わしたグラフ。虚部の絶対値が小さい順に数えた Riemann ゼータ関数の非自明零点(との複素共役との組) を、0個, 10個, 100個, および500個まで総和した場合。ただし、は不連続となる素数の所で左右極限値の平均となるように定義する (一様収束性に配慮した定義)。
実は、このグラフは近似が鋭敏になるよう、非自明零点項の無限和を個の有限和に置き換える次の技法を適用している。 この技法については、H. Riesel, G. Göhl の論文 「Some calculations related to Riemann's prime number formula ; Mathematics of Computation, Vol.24, No.112, p.969~983 (1970)」 で論じられている。また、Wikipedia の記事 「Prime-counting function」 に掲載されている動画は、D. J. Hutama がこの技法を用いて作成している (説明論文の添付あり。当サイトもこれを参考にした)。
アニメーション(2.64MB)
Riemann - von Mangoldt 公式がに収束する様子のグラフを動画にする。非自明零点の組は、0個~400個まで。
に収束する様子を表わしたグラフ。非自明零点の組を同様の数え上げ方で、0個, 5個, 50個, および500個まで総和した場合。ただし、も不連続となる所で左右極限値の平均を取るものとする。
このグラフは、Riemann - von Mangoldt 公式のような技法を用いなくても描画できる。
アニメーション(2.01MB)
に収束する様子のグラフを動画にする。非自明零点の組は、0個~400個まで。
Fibonacci ゼータ関数
Fibonacci 数実際の数値計算、特に領域においては、
を用いると便利である※1。また、この公式から負の奇数での特殊値が、有理数
になることも分かる。最初の5個の特殊値を具体的に示すと、
となる。
複素関数としての Fibonacci ゼータ関数は、複素平面上において無限個の一位の極
を持つ有理型関数である。特に実軸上において、極は、零点はにある。したがって、複素領域での様相は Riemann のゼータ関数と大きく異なる。
因みに超越数論では、変数が自然数のときの Fibonacci ゼータ関数の値について、超越数や無理数であるかどうかを問題とする。であるとき、次のことが判明している。
ここに、は楕円テータ関数、は q-ディガンマ関数である。
【註記】
※1 : L. Navas「Analytic continuation of the Fibonacci Dirichlet series」The Fibonacci Quarterly, vol.39, (2001) p. 409-418.
※2 : における Fibonacci ゼータ関数の特殊値を、独自研究の頁に掲載しています。
※1 : L. Navas「Analytic continuation of the Fibonacci Dirichlet series」The Fibonacci Quarterly, vol.39, (2001) p. 409-418.
※2 : における Fibonacci ゼータ関数の特殊値を、独自研究の頁に掲載しています。
実変数の Fibonacci ゼータ関数のグラフ。
複素変数の Fibonacci ゼータ関数のグラフ。
次のグラフ上の平行な直線はすべて等間隔で、実線の交点に Fibonacci ゼータ関数の極がある。
Euler 和(調和級数係数の Dirichlet 級数)
日:Euler 和,英:Euler sum, 仏:Somme d'Euler,独:Eulersche Summe
調和級数の値を係数とする Dirichlet 級数
は現在、Euler 和 (Euler Sum) と呼ばれている。この関数は、例えば 「NIST - Handbook of Mathematical Functions」 の613頁 (25. 16 (ii)) に記載がある。
Euler 和は、1742年の 「C. Goldbach からL. Euler への手紙」 の内容に着想を得た Euler が考察を始めたもので、が2以上の自然数の場合は、Riemann ゼータ関数の特殊値で表わせる。
この結果も、Euler によって得られた。
なお、次の公式を用いれば、前述の Dirichlet 級数が収束しない複素数の領域でも計算できる。
ここに、は Euler の定数、は Bernoulli 多項式である。
調和級数部分を一般化した、
は一般 Euler 和と呼ばれ※1、同様に特殊値が知られており、またそれらを用いれば他の様々な無限級数の値を表わせる。一般 Euler 和は、ととの間に可換な対称性
がある。同様に、
によって、前述の Dirichlet 級数が収束しない複素数の領域でも計算できる。ただし、が非正整数の場合は不定形が生じるので、代わりに閉じた公式
を用いればよい。
複素変数の Euler 和は、大域的なグラフで見た場合は Riemann ゼータ関数を平行移動したものに似ているが、一部分で極の点列を持つため、その周辺ではグラフが大きく異なる。また、虚数方向に連なる複素零点は、一般に直線上には載っていない。
【註記】
※1 : 次の式を 一般 Euler 和とする定義もある。
これは、ここでの 一般 Euler 和の定義と
の関係にある。
※1 : 次の式を 一般 Euler 和とする定義もある。
実変数の Euler 和のグラフ。
複素変数の Euler 和のグラフ。
実変数の一般 Euler 和のグラフ。
複素変数の一般 Euler 和のグラフ。
実変数の一般 Euler 和のグラフ。
複素変数の一般 Euler 和のグラフ。
複素変数の一般 Euler 和のグラフ。
Riesz 関数
日:Riesz 関数,リース関数,英:Riesz function, 仏:Fonction de Riesz,独:Riesz funktion
Riesz 関数は、冪級数展開式
そのため数値計算においても、引数が極端に大きい正数での Riesz 関数の振る舞いが関心事となる。ところが、上記の冪級数の収束半径は理論上であるものの、実際は丸め誤差が累積するため有界領域でしか求められない (この事は多くの同様の冪級数にも言える) ので、これを改善する様々な方法が考えられている。例えば、
は、より広い複素領域で実際の数値計算が可能になる。また、Riesz 関数の漸近評価式
が Marek Wolf によって (Riemann 予想の成立を仮定して) 与えられている※1。この結果から、Riesz 関数は正の実軸上に絶対値が非常に大きい零点を無数に持つことが分かる。
Riesz 関数の冪級数展開式が、Riemann 素数計数指数関数に類似していることに着目すれば、後者に対して Jörg - Waldvogel の公式を導く方法が、そのまま Riesz 関数にも応用できて、
が得られる※2。ここには、Riemann ゼータ関数の全ての非自明零点をわたる (ただし、非自明零点がすべて単根であると仮定)。この式は数値計算をさらに容易にするとともに、初等的な式変形によって、M. Wolf の漸近評価式を再び導くことができる※2。
Riesz 関数に類似した関数
もし、
が成立するならば、Riemann 予想も成立する (必要十分条件でもある)。すなわち Hardy - Littlewood 関数は、Riemann ゼータ関数の奇数での特殊値と非自明零点との関係を表現する。
Hardy - Littlewood 関数も、正の実軸上に絶対値が非常に大きい零点を無数に持ち、Riesz 関数と状況が良く似ている。Hardy - Littlewood 関数に関する公式
も、Riesz 関数で用いた方法を応用すれば得られる。
【註記】
※1 : M. Wolf の論文 「Evidence in favor of the Baez-Duarte criterion for the Riemann hypothesis」 Computational Methods in Science and Technology, 14 (1), p.47-54 (2008) を参照。
※2 : 後述の 「Riesz 関数の漸近公式について」 で、この事の証明と検証結果を掲示していますので、併せて参照願います。
※1 : M. Wolf の論文 「Evidence in favor of the Baez-Duarte criterion for the Riemann hypothesis」 Computational Methods in Science and Technology, 14 (1), p.47-54 (2008) を参照。
※2 : 後述の 「Riesz 関数の漸近公式について」 で、この事の証明と検証結果を掲示していますので、併せて参照願います。
実変数の Riesz 関数のグラフ。
複素変数の Riesz 関数のグラフ。
実変数の Riesz 関数のグラフ。正の実軸上にある零点を確認するため、非常に広い範囲を描画するとともに、漸近評価式との比較も行う。
複素変数の Riesz 関数のグラフ。正の実軸上にある零点を確認するため、非常に広い範囲を描画する。
アニメーション(10.50MB)
複素変数の Riesz 関数のグラフ。原点周辺の狭い範囲から非常に広い範囲に描画領域を拡大する動画。
実変数の Hardy - Littlewood 関数のグラフ。
複素変数の Hardy - Littlewood 関数のグラフ。
実変数の Hardy - Littlewood 関数のグラフ。正の実軸上にある零点を確認するため、非常に広い範囲を描画するとともに、漸近評価式との比較も行う。
複素変数の Hardy - Littlewood 関数のグラフ。正の実軸上にある零点を確認するため、非常に広い範囲を描画する。
(2016年6月14日 掲載記事)
は、実は当サイト管理人である私が独自に導いたものですが、既に説明したように Folkmar Bornemann の論文 「Solution of a Problem Posed by Jörg Waldvogel, (2003).」 http://www-m3.ma.tum.de/Allgemeines/FolkmarBornemannPublications (公開はインターネット上のみ) にある方法を応用して導出した公式であり、私の独創だけで得られた結果ではありません。
しかし、この公式は恐らく他に言及例が無いと思われ、また、公式の右辺第2項は級数の初項のみをとると M. Wolf の漸近評価式と一致する等、面白い事実も判明したので、以下、その導出過程を掲示することにしました。
(2018年6月23日 追加記事)
Hardy - Littlewood 関数の漸近公式自体は、既に G. H. Hardy と J. E. Littlewood が論文 「Contributions to the Theory of the Riemann Zeta-Function and the Theory of the Distribution of Primes, Acta Mathematica. 41, p.119–196」 で触れていることが判明しました。ただし、それを導く方法は若干異なり、始めに関数
を用意し、逆 Mellin 変換等を用いてより一般的な関数等式
を導くというものです。ここで、具体的にと置けば Hardy - Littlewood 関数の漸近公式が得られます。ですから、Riesz 関数の漸近公式についても、Hardy と Littlewood、および Riesz 等が既に知っていたとしても何ら不思議ではありません。
【証明】
次の関数を用意する。
これは、やや天下り的ではあるものの、右辺の第1項の形は、Riesz 関数の元々の定義式である冪級数
で網羅されることが分かる。①, ②はすべて1位の極である。③は上記の仮定によりすべて1位となる。それぞれの極に対する留数は、とするとき、
となる。ここに、②の式変形では次の公式を用いる。
ここで、を Fig.1 のような経路に沿って積分する。ただし、積分経路の進行方向に対して極①と極②,③とが互いに別々の側にあることに由来して、符号の違いが生じることに注意する。よって留数定理から、
となる (留数定理は積分経路が閉曲線であることを条件とするが、Fig.1 の経路でも Riemann 球面上に写像すれば本質は閉曲線であることが分かる)。ゆえに、両辺を整理すれば目標の公式が得られる。■
(Fig.1) Riesz 関数に関する積分経路図
因みに、Hardy - Littlewood 関数の場合は、次の関数を上記と同じ経路で積分し、留数定理を適用すると同様の公式が得られる。(したがって、導出過程は掲示しない。)
上記の新しい漸近公式から、容易に M. Wolf の漸近評価式を導くことができる。
新しい漸近公式の右辺第1項は、いかなる自然数の級数項でも極限によって0に近付くことが、その形から自明である。よって、この極限では右辺第2項のみを考えれば良い。
非自明零点が Riemann 予想を満たすと仮定して、そのうち実軸より上部にあるものを、実軸より下部にあるものを (絶対値の小さい零点から順に) と表記するとき、右辺第2項は
となる。さらに、, 、およびを用いれば、
となり、単振動 (余弦+正弦関数) の合成公式によって、新しい漸近評価式
が得られる。ここで、級数項をのみに限ると
となり、これは M. Wolf の漸近評価式に他ならない。なぜなら実際に、
となるからである。
新しい漸近評価式においてならば、正弦関数部分は区間内の値に収まるので、各級数項の寄与はの大きさによって決まる。以降のをいくつか求めると、
となっており、その寄与はと比べて小さい。実際に、新しい漸近公式を番目の項までの有限級数としてグラフにすると、でほぼ概形が決まり、以降の概形はほとんど変化しないことが確認できる (Fig.2)。
(Fig.2) 新しい漸近評価式の有限級数部分のグラフ
以上の結果から、新しい漸近評価式は上限・下限値
を超えない。Riemann-Siegel シータ関数およびその逆関数の増大傾向は、
となるから、の頻度が Gram 点の頻度に等しいと仮定するとき、集合は Gram 点の集合よりも密に分布する (Fig.3)。
(Fig.3) Riemann-Siegel シータ関数とその逆関数の増大傾向
したがって、
となる。最後尾の無限級数は急速に値に近付く (Fig.4)。ゆえには正の有界値である。
(Fig.4) 上限値へ収束する点列のグラフ