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Abel 関数

Abel 関数

日:Abel関数アーベル関数
英:Abelian function,仏:Fonction Abélienne,独:Abelsche funktion

 Abel 関数は、多変数の楕円関数ともいうべき関数で、2p個の線形独立な周期を持つ (p変数の) 一価有理型関数である。楕円関数が種数1の有界な Riemann 面 (トーラス:円環面と同相な曲面) 上の有理型関数と捉えられるのに対して、Abel 関数は種数pの有界な Riemann 面 (p個のトーラスを接合したものと同相な曲面) 上の有理型関数と捉えられる。
 19世紀前半には楕円積分の拡張として、根号内が5次以上の多項式となる超楕円積分、さらには代数関数の積分である Abel 積分が考察対象として本格的に扱われるようになり、それらの積分も楕円積分と同様に、第1種~第3種の標準形に帰着できること等が次第に判明した。また、楕円関数との類似性から、その逆関数に相当するものを求めることが当時の数学界における中心的課題となり、「超楕円積分の逆関数問題」 と呼ばれるようになった。
 まず始めに C. G. J. Jacobi は (多項式が6次の) 超楕円積分の逆関数を求めたが、それは4重周期関数であるものの二価関数であった。種数pが2以上の場合は、(楕円関数のように) 単独の超楕円積分の逆関数ではなく、p個の超楕円積分の和の逆関数からなるp変数の基本対称式が一価関数となる。この事は、代数曲面上の積分に関する 「Abel の定理」 によって裏付けられる。 この定理を初めて述べた N. H. Abel の論文 「Mémoire sur une propriété générale d'une classe très étendue de fonctions transcendantes (超越関数の非常に広いクラスの一般的性質に関する論考)」 は、正式な公表が (パリ科学アカデミーの不手際によって) 遅延していたが※1、その内容をある程度推測し、自身のアイデアも持っていた Jacobi は1834年に、種数2の場合、すなわち2変数の一価4重周期関数 (種数2の Abel 関数のうち特殊なケース) を得ることができた。
 さらに1840年代には J. G. Rosenhain, A. Göpel, および C. Hermite 等が、種数2の Abel 関数を具体的な2変数テータ関数の商で表わすことに成功した。
 一般の種数pの場合に対する 「逆問題」 は、K. Weierstrass と G. F. Riemann によって解決された。Weierstrass は、種数pの超楕円積分の和
  • Abel積分からなる基本対称式
に対する逆関数、すなわち{z1,…,zp}∈C^pを独立変数とするp個の関数{x1,…,xp}∈C^pから、p本の基本対称式
Abel関数の基本対称式
を作れば、それがp個の特殊な Abel 関数の例となることを示した (1853年~1856年)。
 一方、Riemann は、自身の産み出した Riemann 面の概念とその面上での線積分を用いて、種数pの Abel 積分の位相解析的な特徴を洗い出し、それが Abel の定理を充足することを観察した。さらに、2p個の擬周期を持つ具体的なp変数テータ関数を導入し、その2個の商が第1種 Abel 積分を解くこと (つまり、一般的な Abel 関数になっていること) を示した (1857年)。この多変数テータ関数は、現在では Riemann テータ関数と呼ばれている。以下では、これをやや現代的な定義に沿って説明する。
 第1種 Abel 積分の被積分関数である代数関数は、種数pの有界な Riemann 面と同一視でき、それは既に述べたとおりp個のトーラスを接合したものと同相となる。そこで、その面上でとりうる積分経路のうち、互いに線形独立で基本的な経路のみを選び出す。トーラス1個分について、そのような経路は2本あるので、種数pの場合ではak, bk (k=1, 2, ... , p:以下同様) の2p本ある。(次の図は種数2の場合。)
①:積分経路として選定されうるような、基本的な経路。
②:このような経路は含めない。それらは基本的な経路を繋げたものと同じため、含めると重複が生じる。
このとき、p個の線形独立な正則微分形式ωj (j=1, 2, ... , p:以下同様) の各々に対して2p通りの積分経路が選べるので、全部で2*p^2個の線積分
Abel関数の周期を定義する線積分
を作ることができ、それは一般に相異なる複素定数となる。さらに、これらを要素とする行列 (これは、周期行列と呼ばれる)
  • Abel関数の周期行列
を定義すると、積Riemannモジュール行列 Ω=A^-1・B (A^-1Aの逆行列) は正定値対称行列となる (これは現在では、Riemann モジュール行列と呼ばれている)。このとき Riemann テータ関数は、Riemann モジュール行列を係数に用いた多変数 Fourier 級数で定義される。
 さて、ここで取り扱う具体的な Abel 関数は、Ω∈C^(p×p)を Riemann モジュール行列、z={z1,...,zp}∈C^pp個の成分からなるベクトル変数とし、{{ν11/2,…,ν1p/2},{ν21/2,…,ν2p/2}∈R^(2*p)を指標とする Riemann テータ関数を用いて、次のように定義されるものとする。(ここに、νkp (k=1,2)は、0または1の値をとる)。
  • Abel関数の定義
 なお、この Abel 関数は、値:ν11*ν21+ν12*ν22+…+ν1p*ν2pが偶数 (または奇数) になるとき、偶関数 (または奇関数) となる。種数1のときは、Jacobi の楕円関数と完全に一致する。
 Riemann モジュール行列Ωを、2p個の 「Abel 関数の半周期」 からなると捉えれば、この Abel 関数の2p重周期性は、m={m1,...,mp}∈Z^p, n={n1,...,np}∈Z^pの全体に対して、具体的に
  • Abel関数の2p重周期性
と表わされる。
 Abel 関数論は、前述のとおり Weierstrass, および Riemann によって一応の完成段階に達し、しばしば19世紀数学の最高到達点の一つと称される。現在では、解析的な側面として演繹的に Abel 関数論が含まれるように 「代数関数論」 が整備され、その過程で重要視されるようになった Riemann 面の概念や代数多様体は、それ自体が研究対象として興味を引き、位相幾何学など新しい分野との繋がりも見出された。Abel 関数は、一変数複素関数論に比べて (現在でも) 不明な点がある多変数複素関数論において、具体的な考察対象を与えるものとしても重要である。
 Abel 関数の純粋数学的な応用としては、高次の代数曲線や代数曲面 (例えば Kummer 曲面など) を Abel 関数によってパラメータ表示すること等、19世紀後半からの研究がある。これは、現在では 「代数幾何学」 と呼ばれる大きな分野に発展している。整数論では、代数多様体を代数体の類似と見て、前者に付随して定義される 「合同ゼータ関数」 では Riemann 予想が成立していることを、1974年に P. Deligne が証明した等の著しい成果がある。
 物理学においても、重力下で固定点を持つ剛体 (独楽など) の回転運動を記述する Euler 運動方程式は、種数2の Abel 関数によって表わされる特別な解を持つことを、S. V. Kovalevskaya が発見したこと等、種々の応用事例がある。

  • Kummer曲面の図
代数関数 (代数方程式)
  • Kummer曲面の代数方程式
で表わされた Kummer 曲面の例。ただし、t=1/sqrt(2)によって3次元空間内の曲面とした場合。

【註記】
 ※1:これは、数学史上の事件とも言うべき出来事として知られている。概ね次のように経過した。

 1826年:Abel からアカデミーへ論文が提出される。審査は主に A. M. Legendre と A. L. Cauchy が行う。論文の字が薄くて読めないとの結論になり、再提出を Abel に求める事および論文の保管が Cauchy に託された。
 1829年:Jacobi は Legendre に手紙を送り、Abel から提出されたはずの論文に注目するよう促す。(因みに、その約1週間前に Abel は亡くなる。)
 1830年:フランス7月革命。王政復古時代が終わり、保守支持を表明していた Cauchy は亡命する。
 1838年:Cauchy が亡命先から帰国するが、Abel の論文は再び忘れ去られる。
 1841年:アカデミーから論文が公表される (論文提出は1826年であった旨の断り付き)。


Abel関数の記号

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 ここで、上記の Abel 関数が実際に4個の基本周期を持つことを確認しよう。前述の奇関数の定義式、および後述の Riemann テータ関数の諸公式を用いれば、周期性は
  • 奇関数のAbel関数の周期性
となることが分かる。ここに、指標の要素は0または1からなるので、指数関数因子は必ず±1になることに注意する。さらに、ここで考察している事例は、
  • 具体的な指標とRiemannモジュール行列
であるから、周期性の式は
  • 具体的なAbel関数の周期性
に簡略化される。ここで、指数関数因子が1となるためにはm1+m2+n2∈偶数でなければならない。これを満たすときの複素数値ベクトル{ω1,ω2}は、この Abel 関数の周期全体となるが、このうち、ベクトルの長さ (ノルム:{ω1,ω2}のノルム) がなるべく短く、かつ互いに線形独立な (ベクトルの方向が同じでなく反転でもない) ものを基本周期として、
  • 具体的なAbel関数の4基本周期
の4個選べることが分かる。つまり、この Abel 関数の任意の周期はすべて、この4個の基本周期の有限和で表わされる。
 4個の基本周期、基本周期の和の一例、および基本周期からなる格子を、4次元空間内のベクトルとして視覚化すると次のようになる。
  • 4次元空間内における4個の基本周期ベクトル
  • 4次元空間内における基本周期ベクトルの和
  • 4次元空間内における基本周期の格子
 また、変数が基本周期の2区間分を動いたときの動画にするAbel関数の複素変数グラフを、次のアニメーションで視覚化する。
  • Abel関数を動画にする区間
  • Abel関数のグラフ(複素変数:動画)
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セパレータ(*******)
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Riemann テータ関数

日:Riemannテータ関数リーマンθ関数
英:Riemann Theta Function,仏:Fonction thêta de Riemann,独:Riemannsche thetafunktion

 歴史的に Riemann テータ関数は、それらの商として Abel 関数を表わすために導入された。Abel 関数が2p重周期性を持つ多変数有理型関数であるのに対して、Riemann テータ関数は2p重擬周期性を持つ多変数超越整関数である。つまり、Riemann テータ関数は楕円テータ関数の多変数化に相当する。
 種数pの場合の Riemann テータ関数は、多変数 Fourier 級数によって
  • Riemannテータ関数のFourier級数(一般の種数)
と表わされる。ここに、Ω∈C^(p×p)は正定虚部対称な 「Riemann モジュール行列」 とよばれる行列、z={z1,...,zp}∈C^pp個の複素数成分からなるベクトル変数で、級数の和はN={n1,…np}∈Z^pなる整数ベクトル全体をわたるものとする。それぞれの記号の簡略形と具体形との対応は、上記の関係式から類推できる。
 特に、種数2のときを具体的に表記すれば (Ωは対称行列のためa~cで表わされる)、
  • Riemannテータ関数のFourier級数(種数=2)
 Riemann テータ関数の2p重擬周期性は、m={m1,...,mp}∈Z^p, n={n1,...,np}∈Z^pの全体に対して具体的に
  • Riemannテータ関数の2p重擬周期性
と表わされる。また、Riemann テータ関数はzに関して常に偶関数である。
 併せて、「指標付き Riemann テータ関数」 がしばしば定義される。δ={δ1,…δp}∈R^p, ε={ε1,…εp}∈R^pから構成される2×p行列を指標という。このとき、指標付き Riemann テータ関数は
  • 指標付きRiemannテータ関数の定義
と表わされる。ここに、簡略形記号は前述と同じであり、(n+δ)={n1+δ1,…,np+δp}を意味している。
 指標付き Riemann テータ関数は、次のように (指標無し) Riemann テータ関数で表わすことができる。
  • 指標付きRiemannテータ関数の関係式
 特に、種数2の場合を具体的に記述すれば (Ωは対称行列のためa~cで表わされる)、
  • 指標付きRiemannテータ関数の関係式(種数=2)
となる。
 δp,εp∈(0 or 1/2)である場合は、その組み合わせによって4^p個の指標付き Riemann テータ関数が定義され、種数1のときに楕円テータ関数が4種類定義されることの拡張になっている (それらの任意の2個で商をつくると、Abel 関数になる)。それらの指標付き Riemann テータ関数は、値:4δ1*ε1+…+4δp*εpが偶数 (または奇数) になるとき、偶関数 (または奇関数) となり、そのうち2^(p-1)*(2^p+1)個は偶関数、2^(p-1)*(2^p-1)個は奇関数である。
 種数1の場合に楕円テータ関数になることを具体的に表記すれば、
  • 指標付きRiemannテータ関数が楕円テータ関数になる場合
となる。ここに、q=exp(-πiΩ)である。
 一方、Riemann テータ関数は Riemann モジュール行列Ωを変数と見れば、楕円モジュラー形式の多変数化になり、数論等への応用上重要である。C. L. Siegel 等がこの方面の研究で著しい寄与を成している。

Riemannテータ関数の記号

 実変数、および複素変数の Riemann テータ関数Riemannテータ関数の記号のグラフ。3番目は、垂直軸を常用対数目盛にした場合である。(以下同様。)
  • Riemannテータ関数のグラフ(実変数)
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 実2変数の Riemann テータ関数Riemannテータ関数の記号のグラフ。
 (ただしこの場合は、関数値が極端に大きくなるため、実部・虚部それぞれの逆双曲線正弦値をとっている。)
  • Riemannテータ関数のグラフ(実2変数)
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Riemannテータ関数の記号

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Scaled - Riemann テータ関数

 通常の Riemann テータ関数に指数関数因子を乗じた、Scaled - Riemann テータ関数
  • Scaled-Riemannテータ関数の定義
を定義することがある (例えば、「NIST Handbook of Mathematical Functions」 など)。ここに、[ ]^(-1)は逆行列の意味である。
 Scaled - Riemann テータ関数は複素ベクトル変数zに関して、非解析的な有界関数である。偏角は Riemann テータ関数と同一であるが、絶対値は異なり二重周期的である。このため、Scaled - Riemann テータ関数の偏角と絶対値の線は直交しない。しかし、応用上はこの方が便利なこともある。

Scaled-Riemannテータ関数の記号

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 実2変数の Scaled - Riemann テータ関数Scaled-Riemannテータ関数の記号のグラフ。
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超レムニスケート関数

 レムニスケート (連珠形) が原点から延びる弦 (動径) によって切り取られて弧を作るとき、弦の長さは、弧の長さを変数とする Gauss の楕円関数で表わされるのであった。
 ここでレムニスケートを拡張し、原点を中心とし半径がaである円周のn等分点 (ただし、そのうちの一点は座標(a, 0)に固定する) からの距離の積が一定値a^nになる曲線を考え、これをn焦点のレムニスケート (n連珠形) と呼ぶことにする。この条件を極座標上で表現すると、
  • n焦点のレムニスケート(式変形前)
となるので、これを整理すればn焦点のレムニスケートの極座標表示式
r^n = 2 a^n cos(nθ)
が得られる。さらに、n焦点の場合についても、弦の長さrを弧の長さuで表わす類似を考えると、曲線の長さを求める公式から、
  • r = 2^(1/n) a * sl[2n](u/(2^(1/n) a))(過程・結果)
が得られる。(下図は、3焦点のレムニスケート, 4焦点のレムニスケートである。)
  • 3焦点のレムニスケート
  • 4焦点のレムニスケート
ここに、w = sl[n](z)は超楕円積分
  • z = sl[n]-1(w) = Integral[0,w](1/Sqrt(1-t^n))dt
の逆関数であり、Gauss の楕円関数 (レムニスケート正弦関数) を拡張したものに相当するので、当サイトではsl[n](z)を 「超レムニスケート関数」 と称する※1。ただし、超レムニスケート関数は一般に多価関数となり、楕円関数等の一価関数に帰着されるのは一部のnの場合に限られる。例えば、
  • 超レムニスケート関数の還元ケース
となる※2。
 また、sl[6](z)は三重周期の多価関数、sl[8](z)は四重周期の多価関数であるが、sl[6](z)は2乗すると
  • 楕円関数sl6(z)^2
となるので、実質は楕円関数の無理関数であることが分かる。

【註記】
 ※1:NDSolveComplexDomain.m に収録している超レムニスケート関数のコードは、nが非整数である場合も一応計算できるが、そのグラフは正当性に疑念が残る概形になる (非複素解析的な結果になるので、恐らく誤っている)。

 ※2:C. F. Gauss は、三角関数の拡張を企図して楕円関数の発見に至るまでの過程で、ここで言うところのsl[n](z)についても検証している。高木貞治 著 「近世数学史談」 の第6章冒頭 (p.36~37) を参照。

sl[n](z)

 超レムニスケート関数:実変数sl[6](x)および複素変数sl[6](z)のグラフ。3焦点のレムニスケートで現れる。
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)

 超レムニスケート関数:実変数sl[8](x)および複素変数sl[8](z)のグラフ。4焦点のレムニスケートで現れる。
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)

 超レムニスケート関数:実変数sl[10](x)および複素変数sl[10](z)のグラフ。5焦点のレムニスケートで現れる。
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)

 超レムニスケート関数:実変数sl[5](x)および複素変数sl[5](z)のグラフ。
 (複素変数の3番目のグラフは、放射状の分枝切断線を採用した場合。)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)

 超レムニスケート関数:実変数sl[7](x)および複素変数sl[7](z)のグラフ。
 (複素変数の3番目のグラフは、放射状の分枝切断線を採用した場合。)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)
  • 超レムニスケート関数のグラフ(複素変数)

 実変数の超レムニスケート関数sl[n](x)のグラフ。nの推移によるグラフの違いを確認する。
  • 超レムニスケート関数のグラフ(実変数)

 多価関数である超レムニスケート関数sl[8](z)を一価関数化したものは保型関数になる。以下、このことを確認しよう。しかし、考察を容易にするため、sl[8](z)の代わりにsl[8](z)^8で考える。
 関数sl[8](z)^8のグラフは次のようになる。
  • sl[8](z)^8のグラフ

 原点を含む正8角形の領域をsl[8](z)^8の 「基本領域」 と捉えたとき、正8角形の頂点は内角が3π/4であるから、その8倍で2πの整数倍、すなわち元の分枝に戻る。よって、各頂点はsl[8](z)^8の代数分岐点であり、8枚分の正8角形の頂点が集まっている。
 Euclid 平面上では、頂点を介して8枚分の正8角形を敷き詰めることはできないが、非 Euclid 平面 (双曲幾何) 上では可能である。したがって、正8角形を円弧正8角形に移す写像 (Schwarz - Christoffel 変換等、複数種の等角写像の合成) によって、sl[8](z)^8Schwarz の保型関数s2(2, 8, 8; z)に移る。
  • s2(2, 8, 8; z)のグラフ

 なお、合同な円弧正8角形のみから成る Schwarz の保型関数は無数にあるため、写像先の円弧正8角形は、これが唯一ではない。例えば Schwarz の保型関数s2(2, 8, 3; z)sl[8](z)^8の一価関数化になる。
  • s2(2, 8, 3; z)のグラフ

 以下は、s2(2, 8, 3; z)による一価関数化を、紙細工で再現した様子である。(正8角形は非 Euclid 平面上では歪んで見えるが、実際には 「歪んでいない」 と考えるのである。)
 用意した組み立てパーツ。
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:パーツ
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:組み立て前の写真
 組み立て中の状態。貼り合わせは瞬間接着剤を用いた。
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:組立中の写真1
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:組立中の写真2
 完成。横から見ると、フリル状に歪んでいるので、これを平面と呼ぶのは無理がある。しかし、それは Euclid 空間に住む人間の感覚である。この曲面上のみを移動可能な 「2次元生命体」 が存在したならば、彼らは 「我々の世界は平坦で歪みがない。ここでは正8角形を隙間なく敷き詰めることができる。」 と言うであろう。フリル状の歪みは、この非 Euclid 平面が負の曲率を持つ (双曲幾何である) ことに由来する。
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:完成写真1
  • s2(2, 8, 3; z)の紙細工:完成写真2
 なお、深い論考を伴ったもっと複雑な紙細工が、「Home page of Gerard Westendorp」 (http://westy31.home.xs4all.nl/Geometry/Geometry.html) に多数掲載されている。

Squigonometric 関数

日:Squigonometric 関数※1
英:Squigonometric functionTrigonometric function in ν-norm

 ここでは、前節の超レムニスケート関数とよく似ている別の関数を取り上げる。以降、断らない限りν∈R>0とする。
 円の陰関数表示式を拡張したAbs(x)^ν+Abs(y)^ν=1で表わされる曲線を 「Squircle」 という※2。これは、二次元平面{x, y}におけるν-ノルム (拡張された絶対値)(Abs(x)^ν+Abs(y)^ν)^(1/ν)が1以内となる領域の境界線でもある。
 Squircle は、媒介変数表示式
  • Squircleの媒介変数表示式
で表わすこともできるが、このθは円における弧度を借用しているに過ぎない。すなわちν≠2では、Squircle とθの結び付きが不明瞭になってしまう。
 そこで、点{x, y}を通る動径と始動径および Squircle で囲まれた領域の面積をaとするとき、いかなるνであっても、Squircle とaが明瞭に結び付く媒介変数表示式
  • SquircleのSquigonometric関数表示
で記述できる関数sq[ν](z), cq[ν](z)を考え、これを Squigonometric 関数という (また、これを用いる三角法の類似は Squigonometry と呼ばれる)※3。
  • Squircleの媒介変数表示(1)
  • Squircleの媒介変数表示(2)
 具体的に、Squigonometric 正弦関数w=sq[ν](z)は、Abel 積分
  • 逆Squigonometric正弦関数
の逆関数であり、Squigonometric 余弦関数cq[ν](z)との関係、および周期性等の性質
  • Squigonometric関数の性質
を持つ。ただし、周期性は Squircle の定義式に絶対値記号が使われていることに因る。このため、一般に Squigonometric 関数は、複素領域で技巧的な分枝切断線が無数に入り、互いに連結していない分枝が生じてしまう。そこで当サイトでは、解析接続が施されて分枝が単連結となる Squigonometric 関数
  • Squigonometric関数(解析接続型)
を併せて定義する。両者は、非線形連立微分方程式の解
  • Squigonometric関数が満たす微分方程式
となる。(実際の数値計算では、上記のうち初期条件をX(K[ν]/2) = Y(K[ν]/2) = 2^(-1/ν)に変更した方が都合が良い※4。)
 関数sq*[ν](z), cq*[ν](z)は一般に多価関数であるが、特別なνの場合では既知の一価関数に還元される。例えば、
  • Squigonometric関数の還元(1)
となる。また、sq*[4](z), cq*[4](z)は2乗すると
  • Squigonometric関数の還元(2)
となるので、楕円関数の無理関数に帰着される。(→ Gauss および Dixon の楕円関数)
 Squigonometric 余弦関数は、
  • Squigonometric余弦関数の関係
であるから、いずれの複素変数グラフも、Squigonometric 正弦関数のそれを原点で180°回転し、さらにK[ν]平行移動したものと一致する。(それゆえ、複素変数の Squigonometric 余弦関数のグラフは省略する。)

【註記】
 ※1:恐らく Squigonometric function は新しい名称で、適当な訳語もまだ存在しない。当サイトでは敢えて (検索に掛かりやすいキーワードとして) "Squigonometric" を残し、「Squigonometric 関数」 と呼ぶことにする。もし、次の※2を踏まえて全訳したならば、「矩形円関数」 または 「方円関数」 となるだろうか?。

 ※2:Squircle なる名称も、Square (矩形, 四角形) と Circle (円) から成る比較的新しい造語であって、統一された訳語は存在しない。中国語ではこれを 「方圓形」 と訳すようである。なお、νが偶数ならば Squircle と一致する定義x^ν+y^ν=1(ν∈N>0)の場合を、「Fermat 曲線」 と呼ぶことがある。
 さらに、Squircle を一般化した曲線Abs(x/a)^μ+Abs(y/b)^ν=1(a,b,μ,ν∈R>0)は、「スーパー楕円」 または 「Lamé 曲線」 と呼ばれている。スーパー楕円に対応した Squigonometric 関数も既に研究されているが、当サイトはそこまで深入りしない。

 ※3:通常ならば、Squigonometric 関数はsin[ν](z), cos[ν](z)で表記されるが、残念ながら当サイトでは同じ記号を q-三角関数で使用したので、代わりにsq[ν](z), cq[ν](z)で表記する。

 ※4:NDSolveComplexDomain.m に収録している Squigonometric 関数のコードは、νが整数または半奇数ならば複素変数まで正しい。その他のνでは実変数のみ正しい。
 因みにνが半奇数のときは、代替の非線形連立微分方程式
  • Squigonometric関数が満たす微分方程式(第2の型)
を用いる。(この微分方程式は、逆関数である Abel 積分の置換積分から導くことができる。)


sq[ν](z), cq[ν](z)

 実変数の Squigonometric 関数sq[4](x)=sq*[4](x),cq[4](x)=cq*[4](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq[4](z)=sq*[4](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq[5](x), cq[5](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq[5](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq[6](x)=sq*[6](x),cq[6](x)=cq*[6](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq[6](z)=sq*[6](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq[7](x), cq[7](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq[7](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq[ν](x), cq[ν](x)のグラフ。ν≧1の場合。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq[ν](x), cq[ν](x)のグラフ。0<ν≦1の場合。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

x=cq[ν](t), y=sq[ν](t)

 Squircle の図。このうち、円または四角形になる場合を除いて興味深い事例は、放物線の一部分が4個集まるν=1/2の場合と、アステロイド (Astroid, 星茫形) になるν=2/3の場合である。(→ Wikipedia(En):Astroid)
  • Squircleの図
  • Squircleの図(ν=1/2)
  • Squircleの図(ν=2/3)

 アニメーション(9.42MB)
 一定長の線分の2端点のうち、一方が常に横軸上、他の一方が常に縦軸上を動くとき、線分群の包絡線はアステロイドになる。
  • 第1種Chebyshev関数のグラフ(実変数:動画)

sq*[ν](z), cq*[ν](z)

 実変数の Squigonometric 関数sq*[5](x), cq*[5](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq*[5](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 実変数の Squigonometric 関数sq*[7](x), cq*[7](x)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(実変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq*[7](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq*[5/2](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

 複素変数の Squigonometric 関数sq*[7/2](z)のグラフ。
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)
  • Squigonometric関数のグラフ(複素変数)

x=cq*[ν](t), y=sq*[ν](t)

 (νを実数まで拡張した) Fermat 曲線の図。第1象限では常に Squircle と一致するが、その他の範囲ではν≠Evenのときに Squircle と異なる曲線、または曲線が非表示になる。
  • Fermat曲線の図

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